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東京地方裁判所 平成8年(ワ)3969号 判決

東京都港区芝大門一丁目一三番九号

原告

昭和電工株式会社

右代表者代表取締役

村田一

大阪市中央区道修町一丁目七番一〇号

原告

扶桑薬品工業株式会社

右代表者代表取締役

戸田幹雄

原告ら訴訟代理人弁護士

中島和雄

右補佐人弁理士

寺田實

東京都渋谷区幡ケ谷二丁目四四番一号

被告

テルモ株式会社

右代表者代表取締役

和地孝

大阪市中央区道修町三丁目二番一〇号

被告

田辺製薬株式会社

右代表者代表取締役

千畑一郎

被告ら訴訟代理人弁護士

田倉整

松尾翼

奥野〓久

西村光治

右補佐人弁理士

仁木弘明

主文

原告らの請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は原告らの負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告テルモ株式会社は、別紙物件目録一及び二記載の輸液用袋を製造し、これを使用した輸液製品を製造し販売してはならない。

2  被告田辺製薬株式会社は、前項の輸液用袋を使用した輸液製品を製造し販売してはならない。

3  被告らは、各その本支店、営業所、工場及び倉庫に保有する第一項の輸液用袋並びにこれを使用した輸液製品をいずれも廃棄せよ。

4  被告テルモ株式会社は、原告ら各自に対し、金五億七二〇〇万円及びこれに対する平成八年三月一二日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

5  被告田辺製薬株式会社は、原告ら各自に対し、金五五五〇万円及びこれに対する平成八年三月一二日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

6  訴訟費用は被告らの負担とする。

7  第一項ないし第五項につき仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

主文同旨

第二  当事者の主張

一  請求原因

1  原告らは、次の特許権を共有している(以下、この特許権を「本件特許権」という。)。

特許番号 第一八四四一六三号

発明の名称 医療用袋

出願年月日 昭和五七年三月二六日

出願公告年月日 平成三年一〇月四日

登録年月日 平成六年五月一二日

特許請求の範囲 本判決添付の特許公報(以下「本件公報」という。)の特許請求の範囲第1項記載のとおり(以下、この発明を「本件発明」という。)

2  本件発明の構成要件を分説すると、次のとおりである(以下、本件発明の構成要件は、例えば「構成要件〈1〉」のように、番号をもって示す)。

〈1〉 内外層を密度〇・九三〇g/3cm以下の低密度ポリエチレンとし、

〈2〉 中間層をエチレン酢酸ビニル共重合体とする

〈3〉 積層体からなり、

〈4〉 積層体全体の厚みが〇・一五mm~〇・六mmであって、

〈5〉 そのうち中間層の厚みの割合が六〇%以上であること

〈6〉 を特徴とする医療用袋

3  被告テルモ株式会社(以下「被告テルモ」という。)は、平成三年一〇月四日以降平成七年七月末日まで、別紙物件目録一記載の輸液用袋(以下「イ号袋」という。)を製造し、これを使用して、別紙製品目録一記載の輸液製品を製造、販売し、また、イ号袋を使用して、被告田辺製薬株式会社(以下「被告田辺」という。)のために別紙製品目録二記載の輸液製品を製造した。

被告田辺は、被告テルモが製造した別紙製品目録二記載の輸液製品を販売した。

被告テルモは、平成七年八月以降、別紙物件目録二記載の輸液用袋(以下「ロ号袋」という。)を製造し、これを使用して、別紙製品目録一記載の輸液製品を製造、販売し、また、ロ号袋を使用して、被告田辺のために別紙製品目録二記載の輸液製品を製造している。被告田辺は、被告テルモが製造した別紙製品目録二記載の輸液製品を販売している。

4(一)  イ号袋の構成を分説すると、次のとおりである(以下、イ号袋の構成は、例えば「構成A」のように、記号をもって示す。)。

A 内外側部をエチレンと一・七~二・五重量パーセントの酢酸ビニルを含む密度〇・九二五~〇・九二九グラム/立方センチメートルの架橋しているエチレン酢酸ビニル共重合体のフィルムとし、

B 中間部をエチレンと一五・九~二一重量パーセントの酢酸ビニルを含む架橋しているエチレン酢酸ビニル共重合体のフィルムとする、

C 内側部、中間部、外側部が密着しているシートからなり、

D シート全体の厚みが〇・三~〇・四ミリメートルであって、

E そのうち中間部の厚みの割合が七五~九〇パーセントである

F 輸液用袋

(二)  ロ号袋の構成を分説すると、次のとおりである(以下、ロ号袋の構成は、例えば「構成a」のように、記号をもって示す。)。

a 内外側部をエチレンと三・一~四・一重量パーセントの酢酸ビニルを含む密度〇・九二八~〇・九三〇グラム/立方センチメートルの架橋しているエチレン酢酸ビニル共重合体のフィルムとし、

b 中間部をエチレンと一五・九~二一重量パーセントの酢酸ビニルを含む架橋しているエチレン酢酸ビニル共重合体のフィルムとする、

c 内側部、中間部、外側部が密着しているシートからなり、

d シート全体の厚みが〇・三~〇・四ミリメートルであって、

e そのうち中間部の厚みの割合が七五~九〇パーセントである

f 輸液用袋

5(一)  構成要件〈1〉、〈2〉について

(1) ポリエチレンは、エチレンの高重合体をいうが、少量の酢酸ビニルを含む共重合体として使用されることが多く、酢酸ビニルを含む共重合体のうち、酢酸ビニルの含量が七重量パーセント以下のものは、ポリエチレンの範疇に属するものとして扱われている。構成要件〈1〉の「ポリエチレン」も、そのような意味である。

イ号袋及びロ号袋の内外側部の酢酸ビニルの含量は七重量パーセント以下である(構成A、a)から、イ号袋及びロ号袋の内外側部は、構成要件〈1〉の「ポリエチレン」に該当し、密度が〇・九三〇グラム/立方センチメートル以下の低密度のものであるから、構成要件〈1〉の「密度が〇・九三〇グラム/立方センチメートル以下の低密度ポリエチレン」に該当する。

(2) エチレンと酢酸ビニルの共重合体のうち、酢酸ビニルの含量が七重量パーセント以下のものは、右のとおりポリエチレンの範疇に属し、六〇重量パーセントを超えるものは、物性的に異なるので、構成要件〈2〉の「エチレン酢酸ビニル共重合体」は、酢酸ビニルの含量が七重量パーセントを超え、六〇重量パーセント以下のものを意味する。

イ号袋及びロ号袋の中間部の酢酸ビニルの含量は七重量パーセントを超え、六〇重量パーセント以下である(構成B、b)から、イ号袋及びロ号袋の中間部は、構成要件〈2〉の「エチレン酢酸ビニル共重合体」に該当する。

(3) イ号袋及びロ号袋の内外側部及び中間部は、架橋されている(構成A、a及び構成B、b)。しかし、架橋は周知慣用手段であり、それによってわずかの橋かけの点を除き分子構造が変わるわけではないから、三層構造とすることにより柔軟性、透明性、衛生性、耐熱性をバランスさせたという本件発明の作用効果を失わない限り、架橋の点は単なる付加にすぎないというべきである。しかるところ、イ号袋及びロ号袋は、三層構造とすることにより柔軟性、透明性、衛生性、耐熱性をバランスさせたという本件発明の作用効果を奏するから、架橋の点は、イ号袋及びロ号袋が本件発明の技術的範囲に属するかどうかを左右することはない。本件公報には、低密度ポリエチレンに関して、実用上支障をもたらさない範囲で変性してもよい(本件公報三欄四行ないし七行)旨記載されているが、これは、架橋してもよいとの趣旨を含んでいるものである。

なお、被告らは、架橋により物性等が異なると主張するが、イ号袋及びロ号袋は、架橋のための放射線の照射量が少ないので、架橋しているといっても、分子間の橋かけ部分は少なく、物性は、架橋されていないものと変わらないから、物性について見ても、架橋の点は、イ号袋及びロ号袋が本件発明の技術的範囲に属するかどうかを左右することはない。

(4) よって、構成A、aは構成要件〈1〉を、構成B、bは構成要件〈2〉を、いずれも充足する。

(二)  構成CないしF及び構成cないしfは、いずれも、構成要件〈3〉ないし〈6〉を充足する。

6  平成三年一〇月四日以降平成七年七月末日までの間における、被告テルモの別紙製品目録一記載の輸液製品の販売高は、薬価基準ベースで八九四億円であり、被告田辺の別紙製品目録二記載の輸液製品の販売高は、薬価基準ベースで八七億円である。薬価基準とは、その使用につき保険による支払が認められる医薬品の価格であり、被告らの現実の販売高は、その八〇パーセント程度であるから、被告テルモの販売高は、八九四億円の八〇パーセントに当たる七一五億二〇〇〇万円であり、被告田辺の販売高は、八七億円の八〇パーセントに当たる六九億六〇〇〇万円である。

別紙製品目録一及び二記載の輸液製品に対するイ号袋及びロ号袋の寄与率は、いずれも四〇パーセントである。

実施料率は、四パーセントである。

以上によると、平成三年一〇月四日以降平成七年七月末日までの間における、被告テルモの別紙製品目録一記載の輸液製品についての実施料相当額は、七一五億二〇〇〇万円に寄与率四〇パーセント及び実施料率四パーセントを乗じた一一億四四〇〇万円(一〇〇万円未満切捨て)であり、被告田辺の別紙製品目録二記載の輸液製品についての実施料相当額は、六九億六〇〇〇万円に寄与率四〇パーセント及び実施料率四パーセントを乗じた一億一一〇〇万円(一〇〇万円未満切捨て)である。

原告らは、本件特許権を、持分二分の一ずつにより共有しているから、原告ら各自は、被告ら各自に対し、右実施料相当額の二分の一に当たる金額(被告テルモに対しては各五億七二〇〇万円、被告田辺に対しては各五五五〇万円)の支払を求めることができる。

7  よって、原告らは、本件特許権に基づき、被告テルモに対して、イ号袋及びロ号袋の製造並びにイ号袋及びロ号袋を使用した輸液製品の製造、販売の差止めを求め、被告田辺に対して、イ号袋及びロ号袋を使用した輸液製品の製造、販売の差止めを求め、被告らに対して、各その本支店、営業所、工場及び倉庫に保有するイ号袋及びロ号袋並びにこれを使用した輸液製品の廃棄を求める。また、原告らは、被告テルモに対して、主位的に不法行為による損害賠償として、予備的に不当利得の返還として、原告ら各自に対し、本件特許権侵害による損害(損失)の一部として、右五億七二〇〇万円及びこれに対する不法行為の後で訴状送達の日の翌日である平成八年三月一二日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求め、被告田辺に対して、主位的に不法行為による損害賠償として、予備的に不当利得の返還として、原告ら各自に対し、本件特許権侵害による損害(損失)の一部として、右五五五〇万円及びこれに対する不法行為の後で訴状送達の日の翌日である平成八年三月一二日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1の事実は認める。

2  請求原因2の事実は認める。

3  請求原因3の事実のうち、被告テルモが別紙製品目録一記載の輸液製品のうち番号七三、マンニットT20、500ml以外の輸液製品を製造、販売し、別紙製品目録二記載の輸液製品を製造していること、被告田辺が別紙製品目録二記載の輸液製品を販売していることは認め、その余は否認する。

4(一)(1) 請求原因4(一)のイ号袋の構成につき、構成Aのうち、内外側部を架橋していること、内外側部をフィルムとしたこと、構成Bのうち、中間部を架橋していること、中間部をフィルムとしたこと、中間部の酢酸ビニルの含量が一五・九~二一重量パーセントであること及び構成Cは、いずれも否認し、その余は認める。イ号袋の中間部の酢酸ビニルの含量は、一八・一~二〇・九重量パーセントである。

(2) 請求原因4(二)のロ号袋の構成につき、構成aのうち、内外側部を架橋していること、内外側部をフィルムとしたこと、内外側部の酢酸ビニルの含量が三・一~四・一重量パーセントであること、内外側部の密度が〇・九二八~〇・九三〇グラム/立方センチメートルであること、構成bのうち、「中間部を架橋していること、中間部をフィルムとしたこと、中間部の酢酸ビニルの含量が一五・九~二一重量パーセントであること及び構成cは、いずれも否認し、その余は認める。ロ号袋の内外側部の酢酸ビニルの含量は、三・一~三・九重量パーセントであり、内外側部の密度は、約〇・九三二グラム/立方センチメートルであり、中間部の酢酸ビニルの含量は、一八・一~二〇・九重量パーセントである。

(二) 原告ら主張のように、「内外側部を・・・架橋している・・・フィルムとし、」(構成A、a)、「中間部を・・・架橋している・・・フィルムとする」(構成B、b)、「内側部、中間部、外側部が密着しているシートからなり、」(構成C、c)とすると、内外側部と中間部が、別個の架橋フィルムである又は別個に成形架橋したという趣旨に理解され得る。しかし、イ号袋及びロ号袋は、二種のエチレン酢酸ビニル共重合体を共押出成形したチューブ状長尺シートを、長尺のまま連続的に放射線照射して、一体的な網目構造を有する架橋エチレン酢酸ビニル共重合体からなるシートとし、その後、これを製袋加工して製造しているから、別個の架橋ブィルムである又は別個に成形架橋したという趣旨に理解され得る原告ら主張の表現は、事実に反する。「内外側部が・・・架橋エチレン酢酸ビニル共重合体であり、」(構成A、a)、「中間部が・・・架橋エチレン酢酸ビニル共重合体である」(構成B、b)、「内外側部と中間部が「体的に架橋している(ゲル分率七〇~八〇重量パーセント)シートからなり、」(構成C、c)とすべきである。

5(一)  請求原因5(一)、(二)のうち、構成D、d、構成E、e、構成F、fが、それぞれ構成要件〈4〉、〈5〉、〈6〉を充足することは認め、その余は否認する。

(二)  構成要件〈1〉及び〈2〉について

(1) 構成要件〈1〉の「低密度ポリエチレン」は、エチレンの単独重合体を意味し、エチレン酢酸ビニル共重合体を含まない。なぜならば、「低密度ポリエチレン」がエチレンの単独重合体を意味することは、一般的な用語例から明らかである上、本件発明において、内外層は「低密度ポリエチレン」、中間層は「エチレン酢酸ビニル共重合体」とされていて、両者は峻別されており、また、エチレン酢酸ビニル共重合体は、エチレンの単独重合体よりも耐熱性が劣るから、中間層のエチレン酢酸ビニル共重合体の低い耐熱性を補うために使用される内外層の低密度ポリエチレンに、エチレン酢酸ビニル共重合体を含めることは、本件発明の技術思想と相容れないからである。

イ号袋及びロ号袋の内外側部は、エチレン酢酸ビニル共重合体であるから、「低密度ポリエチレン」ではなく、構成要件〈1〉を充足しない。

(2) 構成要件〈1〉の「低密度ポリエチレン」及び構成要件〈2〉の「エチレン酢酸ビニル共重合体」は、架橋されていない低密度ポリエチレン及びエチレン酢酸ビニル共重合体を意味する。その理由は、次のとおりである。

ア 本件特許の出願当時には、既に、低密度ポリエチレンの実用上の耐熱性の上限が一〇五℃程度であるのに対し、架橋エチレン酢酸ビニル共重合体の耐熱性の上限が一二一℃であることは知られていたから、エチレン酢酸ビニル共重合体の中間層に低密度ポリエチレンの内外層を積層することにより耐熱性を向上させるという本件発明の技術的課題は、架橋エチレン酢酸ビニル共重合体については、与えられる余地がなかった。したがって、構成要件〈1〉の「低密度ポリエチレン」及び構成要件〈2〉の「エチレン酢酸ビニル共重合体」に、架橋エチレン酢酸ビニルが含まれる余地はなく、これらは、架橋されていない低密度ポリエチレン及びエチレン酢酸ビニル共重合体を意味する。

イ 架橋されていない低密度ポリエチレン又はエチレン酢酸ビニル共重合体は、熱可塑性で、溶融成形が可能であり、沸騰キシレンに完全に溶解する(ゲル分率が〇である。)のに対し、架橋されたエチレン酢酸ビニル共重合体は、架橋によりその分子構造が網目構造に変化し、分子量が増大する。そして、その結果、加熱しても、溶解、流動せず、熱可塑性がなく、溶融成形をすることができず、沸騰キシレン溶媒に対して溶解しにくい(ゲル分率七〇ないし八〇パーセント)。このように、架橋エチレン酢酸ビニル共重合体と架橋されていない低密度ポリエチレン又はエチレン酢酸ビニル共重合体は、基本的な物性が異なるから、物として別の物であり、構成要件〈1〉の「低密度ポリエチレン」及び構成要件〈2〉の「エチレン酢酸ビニル共重合体」に、架橋エチレン酢酸ビニルを含めて解する余地はなく、これらは、架橋されていない低密度ポリエチレン及びエチレン酢酸ビニル共重合体を意味する。

イ号袋及びロ号袋の内外側部、中間部は、架橋エチレン酢酸ビニル共重合体によって構成されているから、構成要件〈1〉の「低密度ポリエチレン」及び構成要件〈2〉の「エチレン酢酸ビニル共重合体」を充足しない。

(3) ロ号袋の内外側部の密度は、約〇・九三二グラム/立方センチメートルであるから、ロ号袋は、この点においても、構成要件〈1〉を充足しない。

(三)  構成要件〈3〉について

イ号袋及びロ号袋は、右4(二)のとおり、シート全体が架橋されて、一体的な網目構造体になっており、内外側部と中間部を剥離することは不可能であるから、「積層体」ではなく、構成要件〈3〉を充足しない。

6  請求原因6の事実は否認し、主張は争う。

7  請求原因7の主張は争う。

三  被告らの主張

1  本件特許権は、次の理由により、無効である。

本件発明は、一一五℃×三〇分の高圧蒸気滅菌に対して耐熱性を有するという作用効果のある医療用袋として特許されているが、明細書記載の実施例を追試しても、右の高圧蒸気滅菌に耐える医療用袋は得られないから、本件発明は未完成発明である。

また、本件特許は、一一五℃×三〇分の高圧蒸気滅菌に耐える医療用袋が本件発明によって得られることについての技術思想の開示が明細書においてされていないから、明細書の記載不備である。

さらに、内外層を低密度ポリエチレンとし、中間層をエチレン酢酸ビニル共重合体とすることは、本件特許出願当時の既存の技術の組み合わせにすぎず、これにより既存の技術により得られる作用効果を超えた作用効果が何ら生じるものではないから、本件特許は進歩性を欠いている。

2  本件特許権は、右のとおり無効であるから、本件特許権に基づいて権利行使をすることはできず、その権利行使は、権利の濫用である。

また、権利行使自体が禁じられないとしても、本件発明の技術的範囲は、明細書に具体的に開示された実施例に限定して解釈されるべきである。そうすると、イ号袋及びロ号袋は、実施例の技術的範囲に属しないから、本件特許権を侵害しない。

四  被告らの主張に対する認否

被告らの主張は、すべて争う。

理由

一1  請求原因1、2の事実は当事者間に争いがない。

2  請求原因3の事実のうち、被告テルモが別紙製品目録一記載の輸液製品のうち番号七三、マンニットT20、500ml以外の輸液製品を製造、販売し、別紙製品目録二記載の輸液製品を製造していること、被告田辺が別紙製品目録二記載の輸液製品を販売していることは、当事者間に争いがない。

3(一)  請求原因4(一)のイ号袋の構成につき、構成Aのうち、内外側部を架橋していること、内外側部をフィルムとしたこと、構成Bのうち、中間部を架橋していること、中間部をフィルムとしたこと、中間部の酢酸ビニルの含量が一五・九~二一重量パーセントであること、構成C以外は、当事者間に争いがない。

(二)  請求原因4(二)のロ号袋の構成につき、構成aのうち、内外側部を架橋していること、内外側部をフィルムとしたこと、内外側部の酢酸ビニルの含量が三・一~四・一重量パーセントであること、内外側部の密度が〇・九二八~〇・九三〇グラム/立方センチメートルであること、構成bのうち、中間部を架橋していること、中間部をフィルムとしたこと、中間部の酢酸ビニルの含量が一五・九~二一重量パーセントであること、構成c以外は、当事者間に争いがない。

4  請求原因5(一)、(二)のうち、構成D、d、構成E、e、構成F、fが、それぞれ構成要件〈4〉、〈5〉、〈6〉を充足することは、当事者間に争いがない。

二  構成A、a及び構成B、bについて、原告らは、「架橋しているエチレン酢酸ビニル共重合体のフィルム」とすることを主張し、被告らは、「架橋エチレン酢酸ビニル共重合体」とすることを主張するのであるが、イ号袋及びロ号袋の内外側部及び中間部が架橋されているエチレン酢酸ビニル共重合体(エチレンと酢酸ビニルを反応させて共重合体とした高分子物質)によって構成されていることは争いがないから、この架橋されているエチレン酢酸ビニル共重合体が、構成要件〈1〉の「低密度ポリエチレン」及び構成要件〈2〉の「エチレン酢酸ビニル共重合体」を充足するかどうかについて、まず判断する。

1(一)  甲第一九号証、第二三号証、第三二号証ないし第三五号証、乙第九号証、第一五号証、第二八号証、第三三号証、第三八号証、第三九号証、第五三号証、検乙第一号証ないし第三号証及び弁論の全趣旨によると、次の事実が認められる。

(1) 架橋とは、鎖状構造をもつ高分子を放射線照射等の方法により橋かけすることを意味し、架橋を施すことにより、強度や耐熱性が向上するため、架橋は、工業的に広く用いられている。

(2) 架橋による効果は、放射線の照射によって生じる橋かけ点の数によって決まるところ、橋かけ点の数が多くなると、分子構造は網目状となり、分子量は飛躍的に増大して、溶媒に溶解しにくくなり、融点以上に加熱しても流動することがなく、耐熱性が増大する。このように、架橋によって、物の物理的、化学的性質は大きく変化することとなる。

(3) 架橋による効果は、沸騰キシレン中に浸せきし、浸せき前の重量に対する浸せき後の重量の割合(ゲル分率)を調べることによって判明する。ゲル分率が高いほど、橋かけ点の数が多く、架橋による効果が生じていることが分かる。

(4) 架橋されていないエチレン酢酸ビニル共重合体の耐熱性は、酢酸ビニルの含有量によって異なり、含有量が多いほど耐熱性が劣るところ、含有量が少ないものでも、八〇℃程度の熱にしか耐えられない。

架橋されていない低密度ポリエチレンは、一〇五℃程度の熱にしか耐えられない。

(5) イ号袋及びロ号袋を試料として、一二一℃×三〇分の高圧蒸気滅菌を施す実験を行ったところ、袋を固定するなどの措置を講じなくても、変形はなく、透明性が減少することもなく、イ号袋及びロ号袋は、一二一℃×三〇分の高圧蒸気滅菌に対して十分な耐熱性を有することが確認された。

イ号袋及びロ号袋の試料について、TMA測定(温度を上昇させて試料の変形を測定するもの)を行ったところ、イ号袋の試料は、三三二・九℃で収縮し、三九〇・九℃から急激に伸長し、ロ号袋の試料は、三二二・二℃で収縮し、三九三・一℃から急激に伸長した。

イ号袋及びロ号袋の試料について、沸騰キシレン中に浸せきしてゲル分率を調べたところ、イ号袋の試料については、七五重量パーセント、ロ号袋の試料については、七二重量パーセントであった。

(二)  右(一)認定の事実に弁論の全趣旨を総合すると、高分子物質は、架橋することによって、分子構造が網目状となり、分子量が飛躍的に増大して、溶媒に溶解しにくくなり、融点以上に加熱しても流動することがなく、耐熱性が増大するとの大きな変化が生じるところ、イ号袋及びロ号袋の架橋ざれているエチレン酢酸ビニル共重合体には、そのような変化が生じているものと認められる。

原告らは、イ号袋及びロ号袋は、架橋のための放射線の照射量が少ないので、架橋しているといっても、分子間の橋かけ部分は少なく、物性は、架橋されていないものと同じである旨主張するが、この主張が採用できないことは、右認定の事実から明らかである。

2  そこで、次に、本件公報の架橋に関する記載について検討する。

本件公報(甲第一号証)には、架橋について何らの記載もない。

また、本件公報(甲第一号証)の第1表の比較例3には、エチレン酢酸ビニル共重合体の層だけからなる医療用袋が一一五℃×三〇分の高圧蒸気滅菌に対して耐熱性を有しない旨記載されているが、右1認定のとおり、イ号袋及びロ号袋のような架橋されているエチレン酢酸ビニル共重合体は一二一℃×三〇分の高圧蒸気滅菌に対して十分な耐熱性を有し、架橋されていないエチレン酢酸ビニル共重合体は、八〇℃程度の熱にしか耐えられないのであるから、右の本件公報の第1表の比較例3のエチレン酢酸ビニル共重合体は、架橋されていないエチレン酢酸ビニル共重合体であると認められる。

さらに、本件公報(甲第一号証)の第1表の実施例1及び4には、中間層をエチレン酢酸ビニル共重合体とし、内外層を低密度ポリエチレンとした医療用袋が、一一五℃×三〇分の高圧蒸気滅菌に対する耐熱性を示す旨が記載されているが、発明の詳細な説明において、右高圧蒸気による滅菌処理に関し、「本発明における医療用袋は前記滅菌処理をフリーの状態で行うとシール部近傍にシワが発生し外観を幾分損ねることを認め、このシワの発生を防止するには該袋のシール部の上下端及び/又は左右端を固定する、該袋を積重ねて固定する、該袋の中央部を物体で加圧して固定する等して前記滅菌処理を施せばよいことを見出した。」(本件公報四欄六行ないし一二行)と、医療用袋の固定を必要とする旨が記載されており、第1表によると、一一五℃×三〇分の高圧蒸気滅菌を経た後、固定(本件公報五欄五行には、「固定は内容液を充填した袋の3袋の積重ね」と記載されている。)のある実施例1と固定のない実施例4を比較すると、固定のある実施例1は透明性における目視観察と外観が〇(良好)であるのに対し、固定のない実施例4は、透明性における目視観察と外観が△(稍不良)とされている。右のとおり、イ号袋及びロ号袋のような架橋されているエチレン酢酸ビニル共重合体は一二一℃×三〇分の高圧蒸気滅菌に対して十分な耐熱性を有し、架橋されていないエチレン酢酸ビニル共重合体は、八〇℃程度の熱に、架橋されていない低密度ポリエチレンは、一〇五℃程度の熱にしかそれぞれ耐えられないのであるから、右の本件公報第1表の実施例1及び4の内外層を構成する低密度ポリエチレン及び中間層を構成するエチレン酢酸ビニル共重合体は、いずれも架橋されていないものであると認められる。

以上のとおり、本件公報には、架橋について何らの記載もない上、そこに記載されている実施例等も、架橋されていないものについての記載であると認められる。

3  本件公報(甲第一号証)には、本件発明の効果について、「本発明の医療用袋は各層透明であり、内外層により衛生性、滅菌処理に適する耐熱性及びヒートシール性を有し、中間層により柔軟性及び内外層との接着性を有し、従来の軟質の袋の特性を保持しながら従来の材料であるポリ塩化ビニルの可塑剤の内容液への移行、塩化ビニルモノマーの毒性等の問題を解消するという効果を奏する」(本件公報四欄一八行ないし二四行)と記載されている。また、本件公報においては、耐熱性と外観が×(不良)であり他に特に問題がないもの(第1表の比較例3及び比較例4)について、総合判定が×(不良)とされている。以上のような本件公報の記載に本件発明が医療用袋に関する発明であることを総合すると、滅菌処理に適する耐熱性を有することは、衛生性、柔軟性、透明性とともに、本件発明の重要な効果であるということができる。

ところで、右1認定のとおり、イ号袋及びロ号袋のような架橋されているエチレン酢酸ビニル共重合体は一二一℃×三〇分の高圧蒸気滅菌に対して十分な耐熱性を有するのに対し、架橋されていないエチレン酢酸ビニル共重合体は、八〇℃程度の熱に、架橋されていない低密度ポリエチレンは、一〇五℃程度の熱にしかそれぞれ耐えられないのであるが、甲第一号証及び乙第一号証によると、医療用袋の滅菌は、高圧蒸気法による場合、通常、一一五℃×三〇分、一二一℃×二〇分等によって行われるものと認められるから、この架橋の有無による耐熱性の違いは、滅菌処理に適する耐熱性を有するかどうかに関して重要な差異であるといえる。そして、右2認定のとおり、本件公報において、架橋されていないものを対象とした実施例1及び4について、医療用袋の固定を必要とする旨が記載されているが、これは、架橋されていないエチレン酢酸ビニル共重合体及び低密度ポリエチレンは、右の通常行われる条件の下においては、耐熱性が十分でないためであり、イ号袋及びロ号袋のような架橋されているエチレン酢酸ビニル共重合体については、そのような固定を必要としないことは、右1認定の事実から明らかである。さらに、乙第一六号証の一、二によると、被告テルモが実施例1及び4を追試したところ、いずれについても、袋は破裂し、その外観は変形したことが認められ、また、甲第一一号証の一、二、乙第一四号証及び弁論の全趣旨によると、原告扶桑薬品工業株式会社が、滅菌の方法として袋の変形の起こりにくい水浴法を用い、実施例1の袋の固定の方法として、三袋をステンレス板でそれぞれ挾んで積み重ね、各袋の両中央部を圧迫して固定するという方法を用いて実施例1及び4を追試したところ、固定のない実施例4に該当するものについては、シワと変形が生じて到底実用に耐えられないものとなり、固定のある実施例1に該当するものについても、シール部分に変形が生じたことが認められるから、実施例1及び4の耐熱性は、イ号袋及びロ号袋のような架橋されているエチレン酢酸ビニル共重合体の耐熱性に比較して明らかに劣っているということができる。

4  甲第一六号証ないし第一八号証、第三六号証の一ないし六によると、公開特許公報(特開昭五三-八五九八〇、特開昭五五-五八二四〇、特開昭五六-七六九五五、特開昭四九-五五七三四、特開昭五四-一二八一八三、特開昭五五-六一四二七、特開昭五六-一〇八七〇七、特開昭五六-五八三四、特開昭五七-四一九四九)においては、ポリエチレンや低密度ポリエチレンにつき、これらを架橋することにより、架橋がなければ得られないような耐熱性等の効果が奏される場合は、架橋されている旨が明示されていることが認められる。また、甲第二三号証、第三二号証ないし第三五号証によると、高分子化学に関する辞典、専門書において、架橋ポリエチレンは、ポリエチレンとは別の項目を立てて記載されている例が多いことが認められる。

5  以上を総合すると、架橋されていないエチレン酢酸ビニル共重合体及び低密度ポリエチレンとイ号袋及びロ号袋のような架橋されているエチレン酢酸ビニル共重合体とでは、その物性が大きく異なり、しかも、それは、耐熱性という本件発明の重要な効果に大きく影響するものであるところ、本件公報には、架橋又はそれを前提とした記載は全くなく、右4認定の事実をも考慮すると、構成要件〈1〉の「低密度ポリエチレン」は、架橋されていない低密度ポリエチレンを意味し、構成要件〈2〉の「エチレン酢酸ビニル共重合体」は、架橋されていない「エチレン酢酸ビニル共重合体」を意味するものと認められ、架橋されていないものとは物性を大きく異にする、イ号袋及びロ号袋のような架橋されているエチレン酢酸ビニル共重合体は、構成要件〈1〉の「低密度ポリエチレン」及び構成要件〈2〉の「エチレン酢酸ビニル共重合体」には、含まれないものというべきである。

そうすると、イ号袋及びロ号袋は、構成要件〈1〉の「低密度ポリエチレン」及び構成要件〈2〉の「エチレン酢酸ビニル共重合体」を充足しない。

なお、本件公報(甲第一号証)には、低密度ポリエチレンに関して、実用上支障をもたらさない範囲で変性してもよい(本件公報三欄四行ないし七行)旨記載されているが、本件公報に、右「変性」に架橋が含まれる旨の記載はない上、右2認定のとおり、本件公報には、架橋又はそれを前提とした記載は全くないのであり、その他右1、3、4認定の事実を総合すると、架橋が右「変性」に含まれ、イ号袋及びロ号袋のような架橋されているエチレン酢酸ビニル共重合体が、構成要件〈1〉の「低密度ポリエチレン」及び構成要件〈2〉の「エチレン酢酸ビニル共重合体」に含まれると認めることはできない。

三  したがって、その余の点につき判断するまでもなく、イ号袋及びロ号袋は、本件発明の技術的範囲には属しない。

四  よって、原告らの請求は、いずれも理由がないから、これを棄却することとし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 森義之 裁判官 榎戸道也 裁判官 中平健)

物件目録一(イ号袋)

内外側部をエチレンと一・七~二・五重量パーセントの酢酸ビニルを含む密度〇・九二五~〇・九二九グラム/立方センチメートルの架橋しているエチレン酢酸ビニル共重合体のフィルムとし、中間部をエチレンと一五・九~二一重量パーセントの酢酸ビニルを含む架橋しているエチレン酢酸ビニル共重合体のフィルムとする、内側部、中間部、外側部が密着しているシートからなり、シート全体の厚みが〇・三~〇・四ミリメートルであって、そのうち中間部の厚みの割合が七五~九〇パーセントである輸液用袋

物件目録二(ロ号袋)

内外側部をエチレンと三・一~四・一重量パーセントの酢酸ビニルを含む密度〇・九二八~〇・九三〇グラム/立方センチメートルの架橋しているエチレン酢酸ビニル共重合体のフィルムとし、中間部をエチレンと一五・九~二一重量パーセントの酢酸ビニルを含む架橋しているエチレン酢酸ビニル共重合体のフィルムとする、内側部、中間部、外側部が密着しているシートからなり、シート全体の厚みが〇・三~〇・四ミリメートルであって、そのうち中間部の厚みの割合が七五~九〇パーセントである輸液用袋

製品目録一

次の製品名及び容量のテルモ株式会社の輸液製品

製品名 容量(ml)

一 アミカリック 二〇〇

二 アミカリック 五〇〇

三 アミゼットB 二〇〇

四 アミゼットB 三〇〇

五 アミゼットB 四〇〇

六 アミゼットXB 二〇〇

七 アミゼットXB 三〇〇

八 アミゼットXB 四〇〇

九 アミノ酸注射液TA 五〇〇

一〇 キシリットT 五〇〇

一一 ソルデム1 二〇〇

一二 ソルデム1 五〇〇

一三 ソルデム2 二〇〇

一四 ソルデム2 五〇〇

一五 ソルデム3 二〇〇

一六 ソルデム3 五〇〇

一七 ソルデム3A 二〇〇

一八 ソルデム3A 五〇〇

一九 ソルデム3AG 二〇〇

二〇 ソルデム3AG 五〇〇

二一 ソルデム4 二〇〇

二二 ソルデム4 五〇〇

二三 ソルデム5 二〇〇

二四 ソルデム5 五〇〇

二五 ソルデム6 二〇〇

二六 ソルデム6 五〇〇

二七 ソルビットT 五〇〇

二八 ソルラクト 二五〇

二九 ソルラクト 五〇〇

三〇 ソルラクト 一〇〇〇

三一 ソルラクトD 二五〇

三二 ソルラクトD 五〇〇

三三 ソルラクトS 二五〇

三四 ソルラクトS 五〇〇

三五 ソルラクトTMR 二五〇

三六 ソルラクトTMR 五〇〇

三七 デキストセランD40 五〇〇

三八 デキストセランG 五〇〇

三九 デキストセランR 五〇〇

四〇 デキストセランR 一〇〇〇

四一 デノサリン1 二〇〇

四二 デノサリン1 五〇〇

四三 デノサリン2 二〇〇

四四 デノサリン2 五〇〇

四五 デノサリン3 二〇〇

四六 デノサリン3 五〇〇

四七 テルアミノ-3S 五〇〇

四八 テルアミノ-12 二〇〇

四九 テルアミノ-12 五〇〇

五〇 テルアミノ-12X 二〇〇

五一 テルアミノ-12X 五〇〇

五二 テルモ果糖注 二〇〇

五三 テルモ果糖注 五〇〇

五四 テルモ生食 二五〇

五五 テルモ生食 五〇〇

五六 テルモ生食 一〇〇〇

五七 テルモ糖注 二五〇

五八 テルモ糖注 五〇〇

五九 テルモ糖注10 五〇〇

六〇 ハイカリック液-1号 七〇〇

六一 ハイカリック液-2号 七〇〇

六三 ハイカリック液-3号 七〇〇

六四 ハイカリックNC-L 七〇〇

六六 ハイカリックNC-N 七〇〇

六八 ハイカリックNC-H 七〇〇

七〇 マルトース注ML 二五〇

七一 マルトース注ML 五〇〇

七二 マンニットT15 五〇〇

七三 マンニットT20 五〇〇

製品目録二

次の製品名及び容量の田辺製薬株式会社の輸液製品

製品名 容量(ml)

一 アミカリック 二〇〇

二 アミカリック 五〇〇

三 アミゼットB 二〇〇

四 アミゼットB 三〇〇

五 アミゼットB 四〇〇

六 アミゼットXB 二〇〇

七 アミゼットXB 三〇〇

八 アミゼットXB 四〇〇

〈19〉日本国特許庁(JP) 〈11〉特許出願公告

〈12〉特許公報(B2) 平3-64139

〈51〉Int.Cl.5A 61 J 1/10 A 61 L 31/00 識別記号 Z 庁内整理番号 6971-4C 7132-4C A 61 J 1/00 331 C

〈24〉〈44〉公告 平成3年(1991)10月4日

発明の数2

〈54〉発明の名称 医療用袋

〈21〉出願 昭57-47074 〈55〉公開 昭58-165866

〈22〉出願 昭57(1982)3月26日 〈43〉昭58(1983)9月30日

〈72〉発明者 宍戸 喜八 神奈川県横浜市港南区芹が谷5丁目2-7

〈72〉発明者 松岡 正己 神奈川県横浜市港北区大豆戸町480番地1

〈72〉発明者 石原 則幸 兵庫県尼崎市次屋1丁目7-30

〈72〉発明者 田村 正博 京都府京都市右京区太秦門田町7番地の14

〈71〉出願人 昭和電工株式会社 東京都港区芝大門1丁目13番9号

〈71〉出願人 扶桑薬品工業株式会社 大阪府大阪市東区道修町2丁目50番地

〈74〉代理人 弁理士 寺田責

審査官 津野孝

〈57〉特許請求の範囲

1 内外層を密度0.930g/cm3以下の低密度ポリエチレンとし、中間層をエチレン酢酸ビニル共重合体とする積層体からなり、積層体全体の厚みが0.15mm~0.6mmであつて、そのうち中間層の厚みの割合が60%以上であることを特徴とする医療用袋。

2 内外層を密度0.930g/cm3以下の低密度ポリエチレンとし、中間層をエチレンプロピレン系エラストマーおよびエチレンブテン-1系エラストマーの中から選ばれた少なくとも一種のエラストマーとする積層体からなり、積層体全体の厚みが0.15mm~0.6mmであって、そのうち中間層の厚みの割合が60%以上であることを特徴とする医療用袋。

発明の詳細な説明

本発明は衛生性、柔軟性、透明性、耐熱性等に優れた血液、薬液等を入れる医療用袋に関する。

現在医療用容器としてガラス、ポリエチレン、ポリプロピレン等からなる硬質の容器と可塑剤を含むポリ塩化ビニルからなる軟質の袋が知られている。しかし前者は内容液を滴下する際に通気針又は通気孔つきの輸血セツトを用い空気を導入せねばならず汚染のみならず空気が静脈内に入つて空気栓塞を起こすという非衛生的で且つ危険性もはらんでり、後者は前記空気の導入は不要であり内容液滴下とともに袋自体が大気圧によつて紋られ、輸液終了時には内容液が下部に残留し袋内の空気の患者の体内への混入はなく、加圧による急速輸液が可能であり、加えて容器のように嵩ばらず運搬の便もあつて使用が伸びつつあるものの、前記可塑剤の内容液への移行、ポリ塩化ビニルに含まれる塩化ビニルモノマーの毒性等の問題が残つている。

本発明はこれらの問題を解決すべく種々検討の結果到達したものであり、衛生性に優れ柔軟性に富み、透明性を有しさらに滅菌処理温度に応ずる耐熱性を備えた積層体からなる医療用袋を提供できその要旨は、内外層を密度0.930g/cm3以下の低密度ポリエチレンとし、中間層をエチレン酢酸ビニル共重合体もしくはエチレンブロピレン系エラストマーおよびエチレンブテン-1系エラストマーの中から選ばれた少なくとも一種のエラストマーとする積層体からなり、積層体全体の厚みが0.15mm~0.6mmであつて、そのうち中間層の厚みの割合が60%以上であることを特徴とする医療用袋、である。

本発明の医療用袋を構成する積層体の内外層の低密度ポリエチレンは密度0.930g/cm3以下であり、衛生性はポリ塩化ビニルよりはるかに優れ、良好な柔軟性、透明性を有するが、滅菌の温度条件から密度0.920g/cm3以上が好ましい。なお前記特性に実用上支障をもたらさないで範囲で、低密度ポリエチレンは変性したり、異樹脂、充填材、添加剤等を混合してもよい。

また積層体の中間層のエチレン酢酸ビニル共重合体、エチレンプロピレン系エラストマー又はエチレンブテン-1系エラストマーは、透明性のみならず特に柔軟性に優れており且つ積層体の内外層の低密度ポリエチレンに接着性を有する。なお柔軟性を発揮すべくエチレン酢酸ビニル共重合体の酢酸ビニル含量は15重量%以上、エチレンプロピレン系エラストマーのプロピレン含有量は60モル%以下、エチレン-1系エラストマーのブテン-1含有量ほ5モル%以上が好ましく、また前記特性に実用上支障をもたらさない範囲で、エチレン酢酸ビニル共重合体、エチレンプロピレン系エラストマー又はエチレンブテン-1系エラストマーは変性したり、異樹脂、充填材、添加剤を混合してもよい。

積層体の厚みは好ましくは0.15~0.16mmであり、0.15mm未満では質量感が損なわれ0.6mmを越えると柔軟性が不足気味である。また各層の厚み割合は特に制限するものではないが、積層体に柔軟性を十分付与するには中間層の厚みを積層体の厚みの60%以上が好ましく、内外層の厚みが0.1mm以上では積層体の柔軟性が不足気味であり、内層の厚みが0.01mm未満ではヒートシール強度が弱くなる懸念がある。なお積層体の柔軟性をASTMD747に準拠したテーバースチフネス計による弾性率で表現すれば600kg/cm3以下好ましくは500kg/cm3以下である。

積層体を得るには、水冷式又は空冷式共押出インフレーシヨン法、共押出Tダイ法、ドライラミネーシヨン法、押出ラミネーシヨン法等採用できるが、経済性の点からは水冷式共押出インフレーシヨン法及び共押出Tダイ法が好ましい。積層体は通常チユーブ状、シート伏であり、ヒートシールにより適宜所定の形状、寸法に製袋し給排用のアタツチメントを取付ける。

このようにして得られた医療用袋は必要ならば内容液の充填前に袋の内外面を所定温度の蒸溜水、消毒水等で洗浄され乾燥後に内容液が充填される。次いで滅菌処理が施されるがこの方法としては高圧蒸気による方法が挙げられ、高圧蒸気滅菌の条件としては特に限定される訳ではないか通常115℃×30min、121℃×20min等である。

ところが本発明における医療用袋は前記滅菌処理をフリーの状態で行なうとシール部近傍にシワが発生し外観を幾分損ねることを認め、このシワの発生を防止するには該袋のシール部の上下端及び/又は左右端を固定する、該袋を積重ねて固定する、該袋の中央部を物体で加圧して固定する等して前記滅菌処理を施せばよいことを見出した。

さらに滅菌処理後に40℃以上にて少なくとも10minの熱処理を施すと該袋の透明性が向上することも見出した。なお40℃未満では処理時間が長くなって経済性に難点があり、10min未満では透明性の向上が不足する。

本発明の医療用袋は各層透明であり、内外層により衛生性、滅菌処理に適する耐熱性及びヒートシール性を有し、中間層により柔軟性及び内外層との接着性を有し、従来の軟質の袋の特性を保持しながら従来の材料であるポリ塩化ビニルの可塑剤の内容液への移行、塩化ビニルモノマーの毒性等の問題を解消するという効果を奏する。

以下に実施例、比較例を挙げて本発明をさらに詳細に説明する。

実施例1~4、比較例1~4

第1表に示す合成樹脂及び層構成の積層シートを実施例1~4、比較例1、2は水冷式共押出インフレーシヨン法、比較例3、4はTダイ法によつて成形しさらに内容積500ccの医療用袋として各種特性を測定評価したが、その結果も第1表に示す。

なお表中

PEは密度0.927g/cm3、メルトフローレート(190℃)1.1g/10minの低密度ポリエチレン

EVAは酢酸ビニル含量25重量%のエチレン酢酸ビニル共重合体

EPRは密度0.900g/cm3、メルトフローレート(190℃)1.2g/10min、プロピレン含有量28モル%のエチレンプロピレン系エラストマー

EBは密度0.890g/cm3、メルトフローレート(190℃)3.5g/10min、ブテン-1含有量10モル%のエチレンブテン-1系エラストマー

HDPEは密度0.948g/cm3、メルトフローレート(190℃)1g/10minの高密度ポリエチレン

PPはメルトフローレート(230℃)1g/10minのエチレン4%を含むランダムコポリマー

固定は内容液を充填した袋の3袋の積重ね耐熱生は内容液を充填した後に袋の上下端シール部を固定して115℃×30minの高圧蒸気滅菌処理を施しさらに袋の透明性を向上させるため40℃×10minの処理を施した際の変形、破袋、シールもれを観察した状態、

柔軟性における弾性率はASTM D747に準拠したテーバースチフネス計による測定値、自然排出性は目視観察した状態、

透明性における目視観察は規定の生理食塩水を充填し高圧蒸気滅菌処理後に異物混入を目視観察した状態、透過率は450mμの可視部吸収スベクトルによる測定値、

衛生性は日本薬局方輪液用ブラスチツク容器試験法に基づく試験結果、

外観は目視によるシワ、変形、破袋の状態を意味する。

◎は非常に良好、〇は良好、△は稍不良、×は不良。

第1表

〈省略〉

特許公報

〈省略〉

〈省略〉

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